だれでも始められる美容法・健康法としてヨガはすっかりおなじみのものになりました。ですが、実は種類を選ばないと、「だれでも……」とはいきません。エクササイズとしての面が強調されすぎていて、全くの初心者や高齢者には始めにくいものが増えています。

その反動から、静かなブームになっているのが陰ヨガです。

1.陰ヨガと陽ヨガ

ヨガは古代インドに始まった宗教的な修行方法です。その修行の中に、瞑想や、アーサナと呼ばれるポーズが含まれます。このヨガは大きく分けて陽ヨガと陰ヨガに分けることができます。

1-1.陽ヨガとは

動きが激しく、汗もしっかりとかくものを、全部まとめて陽ヨガと呼びます。

いろいろな流派があり、ハタヨガもそのひとつです。初期のものは1,000年以上前に登場し、13世紀にはほぼ確立していたと考えられています。

1990年代に入ってアメリカなどで流行し始めたヨガの多くは、このハタヨガにエクササイズの要素を採り入れたものです。さらにこの現代的ハタヨガから派生したのが、パワーヨガ、アシュタンガヨガ、アイアンガーヨガなどです。

今でも「ハタヨガ」と呼ばれるものはありますが、やはりエクササイズの要素が強くなっていますので、以前のものをわざわざ「伝統的ハタヨガ」と呼んで区別するのが普通になりました。

1-2.陰ヨガとは

もう一方で、エクササイズの影響はほとんど受けず、ひとつのアーサナ(ポーズ)を数分かけてホールドするようなスタイルのヨガも発展してきていました。その代表が陰ヨガです。

始まりは1980年代とされていますが、注目されることが増えたのは2000年代に入ってからです。

陽ヨガ全盛の中で、「実は違ったスタイルのヨガもある」「今はやっているヨガは、偏りすぎているのではないか」といった考えが背景にあったようです。

2.陰ヨガの特徴

2-1.陰ヨガの目的

陰ヨガの場合は、ひとつのアーサナ(ポーズ)を3分、5分とホールドします。筋肉よりも、さらに奥深くに働きかけ、腱や靭帯といった結合組織に働きかけます。

これで、両手両足や背中、肋膜、股関節、骨盤周りの可動域を広げ、柔軟性を高めます。

また、時間をかけてひとつのポーズを保ち、呼吸も静かなため、瞑想にも入りやすくなります。自分自身へ意識を集中することができ、精神面の緊張もほぐれます。

「心身ともにリラックス効果が高い」のが陰ヨガです。

陽ヨガの多くは、動きが激しく、運動量をこなすことで体脂肪の消費を狙い、または筋肉を鍛えることも期待されています。エアロビクスと比較されるようなことまであります。

2-2.陰ヨガのアーサナの特徴

陰ヨガには「動き回らない」以外にも陽ヨガとの違いがあります。

立ってアーサナ(ポーズ)はありません。すべて座ってか寝てのものになります。下半身に狙いを定めたものが多いです。

また狙いが筋肉ではなく、主に関節部分なのです。ストレッチのように力を入れて無理な範囲まで動かすのではなく、体の力を抜くことで、靭帯や腱、筋膜などの柔軟性を高めます。

3.陰ヨガの代表的なアーサナ

アーサナの数自体も少なく20数種類だけです。

バタフライのポーズ(バッダ・コーナ・アーサナ)

陰ヨガの中でも代表的なアーサナです。床の上に腰を下ろし、足の裏同士を合わせます。かかと・左右の膝・股関節でひし形を作ります。両手はそれぞれ、脚の上に軽く置きます。

ここから手を前に出し、上半身を曲げます。決して無理せず、ただただ体を脱力させ、頭などの重みで自然と背骨が丸まるようにするだけです。この状態で3分から5分キープし、その後ゆっくりと戻してきます。

ドラゴンのポーズ

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脚を前後に開いて、片方の膝は曲げ、もう一方は完全に伸ばして、足の甲や膝も床につけます。手は前出して曲げている膝の上に載せ、両手のひらで抑えるような感じにします。特に股関節の筋肉が伸びるように意識します。
この状態を約20秒が持ったら、もとに戻し、左右の足を入れ替えて同じ動作をします。

スワンのポーズ

最初に床の上に腹ばいになります。ここから脚はそのままに、両手のひらを床につけて、四つんばいにもっていきます。

このとき、息は吸い続けて、頭、肩、胸の順番に押し上げるようにし、最後は上体をそらします。

5秒キープしたら、さらに息を吐きながら、こんどは両足を浮かします。ここでさらに5秒キープです。あとはゆっくりと戻して、同じ動作を繰り返します。

片方の足を前に出し、その膝を内側に90度曲げて同じような動作をするスワンのポーズもあります。

サドルのポーズ

両膝を床につけて立ちます。そこから手で支えながら、ゆっくりと背中を倒していきます。床に着いたら、そのまま腕の力を抜いて、3分から5分リラックスします。

もし、両足でやるのが無理なら、片足だけ残して、もう片足は伸ばしてもいいです。バタフライのポーズ同様に、無理にストレッチしようとせずに、自然と自分の体の重みだけで曲げていくようにするのがポイントです。

伸びをする子犬のポーズ(ウッタナ・シショーサナ)

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まず四つんばいになります。この際、手首をつく位置は方の真下、膝は腰の真下です。つまり、腕も太ももも地面と垂直に立てます。

このまま手首を前に出していきます。それに従って、お尻はやや後ろに突き出すような形になり、足の指も立てます。最後は、おでこも床につけます。この状態を1分ほどキープします。

お尻をさらに後ろにずらして、かかとの上に乗せて、ワンセットが終了です。

4.陰ヨガのシークエンスのポイント

シークエンスとは、ポーズの流れのことです。これが流れるようにポーズを変えていくヴィンヤサヨガのような流派なら、シークエンスがしっかりと作られていないと、レッスンの効率も悪くなるかもしれません。また、多くの流派で採り入れられている太陽礼拝は超定番のシークエンスの一種です。

陰ヨガの場合は、ひとつのポーズを3-5分キープします。ポーズのひとつひとつの合間もゆったりとしたものなので、シークエンスはほとんど気にすることはありません。ただ、いくつものポーズをやり、効率よく進めたいのなら、次のようなことを心がけましょう。

・難しくなく、体への負担も少ないポーズから始める。
・同じような姿勢になるポーズをまとめ、なるべく座りのポーズから仰向けのポーズになるような変化は少なくする。
・きつめのポーズを取ったら、その後はチャイルドポーズのような楽なポーズを入れて、体を休ませる。
・背骨の柔軟性、肩こりの解消など目的がはっきりとしているのなら、その種のポーズを集中的にやる。もちろん、「全身まんべんなく改善。なので様々な効果のポーズを組み合わせる」もあり。
・1時間程度で考えているのなら、ポーズの種類は10個程度が限界になる。

以上は、もちろん自分で考える場合です。ヨガスタジオで陰ヨガのレッスンを取れば、インストラクターがきちんとシークエンスを組んでいてくれるでしょう。

5.陰ヨガには、ダイエット効果ってある?

ダイエット(痩身)が目的でヨガをやる場合、どうしても動きの激しいヴィンヤサヨガやアシュンタンガヨガ、または筋肉のつくパワーヨガに目が行く人が少なくありません。「カロリー消費が高そう」というわけです。

しかし、実際に陰ヨガをやってみる、「意外にカロリーを使っている」ときが気がつくでしょう。自分の体の硬い部分をしっかりと伸ばそうとすると、力もしっかりと入っているからです。

さらに、筋肉や腱の柔軟性を高めるという陰ヨガのメインの効果も、痩身に直結しています。

筋肉などの柔軟性が高まると、その中を通っている血管・リンパ管の柔軟性も高まり、血液・リンパ液が流れる量が増えます。血液によって全身の細胞にしっかりと栄養分が届けられ、リンパ液は細胞活動の結果できた老廃物を運び去ってくれます。「陰ヨガをやれば、細胞活動が盛んになり、カロリー消費も増える」と理解しておきましょう。

また、細胞活動が盛んになるので、肌のターンオーバーも進み、シミ・ソバカスはなくなり、ハリやツヤも回復します。特に美しくなりたい女性にはうれしいことばかりです。

6.陰ヨガのメリット

動きが静かなことから、「エネルギー消費は少なそう。ダイエット効果(痩身効果)も」と考える人がいるかもしれません。

決してそんなことはありません。陰ヨガは陰陽の気を整え、経絡の流れをよくすることで、新陳代謝を高めます。むくみや体脂肪の解消にも役に立ちます。

 

陰陽五行の考え方が採り入れられていますので、東洋医学にも通じるところがあるのです。

7.陰ヨガがおすすめの人

陰ヨガがおすすめできるのはなんといっても、リラックスしたい人・ストレスを解消したい人です。刺激の多い現代社会に感覚が麻痺しているように感じている人にも陽ヨガよりも陰ヨガです。不眠症の人の中には、寝る前に陰ヨガのポーズをととることで、ぐっすりと眠られるようになった人もいます。

また、東洋医学に通じるところから、便秘、むくみ、生理痛といった女性特有のトラブルにや悩んでいる人も試してみる価値があります。

また、陰ヨガと陽ヨガは決して対立するようなものではありません。お互いに不足を補うような関係です。

すでに陽ヨガを始めている人も、陰ヨガのレッスンを受けてみるのもいいでしょう。または、シークエンス(順番)の中にも組み込んでみましょう。実際にレッスンの中で、そうしているヨガスタジオや先生も少なくありません。

8.陰ヨガの本、DVD

動きが激しくないことから、ポーズが比較的理解しやすいのも陰ヨガの特徴でしょう。しかし、ポイントやコツはあります。DVDや本を参考にするのがいいでしょう。

お家で出来るはじめての陰ヨガ

『お家で出来るはじめての陰ヨガ 自律神経を整えて美しく体と心を健康に』(NTSC)

陰ヨガの第一人者であるポール・グリリーさんやサラ・パワーズさんから教えを受けた西川尚美さんが監修したDVDです。

内容としては、陰ヨガの中でも易しいが中心になっています。全くの初心者や、新しいことを始めるのにためらいがちな50代60代の人にもハードルが低いでしょう。

生理痛や冷えなどの解消にもつながるポーズもあるので、女性に特におすすめです。

ヨガの新しい教科書

『ヨガの新しい教科書 Insight Yoga』(アンダーザライト ヨガスクール)

ラサ・パワーズさんが書いた本です。陰ヨガ自体はすでにあったものの、「陰ヨガ(Insight Yoga)」の呼び名を初めて使ったのがこのラサ・パワーズさんとされています。

内容は、陰ヨガにとどまらず、陽ヨーガ、経絡医学、呼吸法、仏教瞑想法までひろがっています。といって、説明ばかりではなく、陰ヨガのポーズを実践する上でも最適のものになっています。

特に陽ヨガに親しんできて、なにか物足りなさを感じている人は得るものが多いでしょう。

 

9.陰ヨガとリストラクティブヨガの違い

陰ヨガはヨガの中のひとつの流派です。ですが、一方に「陽ヨガ」という言葉があるために、エクササイズ色の少ないヨガをまとめて、「陰ヨガ」と呼ぶことがあります。

その広い意味での陰ヨガの一種が、リストラクティブヨガです。最大の特徴は補助具を使って、バランスを取り、姿勢を安定させることです。

とはいえ、やはり陰ヨガと同じように考えないほうがいいでしょう。身体への負担が少ないように工夫されているのは、休ませることで筋肉の回復を図るのが狙いです。

一方の陰ヨガは筋肉よりも関節の周囲の結合組織にアプローチする点で、リストラクティブヨガとは決定的に違います。